「移動することと創作活動」アーティスト・イン・レジデンス シンポジウム2017 in 京都芸術センター 第1部

「移動することと創作活動」アーティスト・イン・レジデンス シンポジウム2017 in 京都芸術センター 第1部

数年後に文化庁の移設が決定した京都の芸術拠点、京都芸術センターで開催された、日本各地で多彩に展開されているアーティスト・イン・レジデンスを考察するシンポジウムに出席してきました。

アーティストが一定期間、普段の創作拠点とは別の地域・国に滞在すること、またそのための活動であるアーティスト・イン・レジデンスプログラムは、創作活動の場の拡大、アーティストと市民とが交流する機会の創出、地域の魅力を再発見することなど、そのプロセスがもたらす波及効果は多方面にわたると考えられます。そして、シンポジウムではアーティスト・イン・レジデンスとネットワークに焦点をあてています。人が移動することが前提となるアーティスト・イン・レジデンスでおのずと網の目のように構築されるネットワークに注目し、そんなネットワークをどのように整備し、活用していくことができるのか。またそのネットワークをどのように地域に還元できるのか。世界各地で活動するアーティストと、ネットワークを活用し活動を展開するアートセンター等から登壇者を招き、2部構成で開催されました。

第一部のテーマは、「移動することと創作活動」

アーティスト・イン・レジデンスという仕組みをアーティストがどの様に活用し、世界に影響を与えているのかを考察するため、ケニヤ、中国、日本から3名のアーティストがその経験や可能性を語りました。まず始めにプレゼンテーションを行ったのは、ケニヤ人アーティストのジェームズ・ムリウキさん。

James Muriuki (ジェームズ ムリウキ)

ケニア、ナイロビ生まれ、ナイロビ拠点のアーティスト、キュレーター。写真や映像、サウンド、インスタレーションなどの多様なメディアを用いて、急速に発展する都市空間の変容を捉えた作品は、国内外で展示・収蔵される。主な個展に「In TRANSITION」(Roots Contemporary, ブリュッセル, 2011)、「Rear View」(Goethe institute, ナイロビ, 2010)、主なグループ展に「NotAboutKarenBlixen」(Interculture Museum, オスロ, 2014)、「Who is the City」(Swedish Centre for Architecture and Design, ストックホルム, 2013)、「Layers」(Nairobi National Museum, ナイロビ, 2012)など。

ケニヤ出身のムリウキさんは、世界各国のレジデンス体験を通じて、国際的な視点で「都市」の在り方を模索する現代美術家です。彼は1960年代から急速に都市化したナイロビの風景に対して、都市開発を推進している「魂」こそが生まれゆく未来の根源だと思い、都市空間の変容を捉えた作品を制作しています。ヨーロッパ各地のレジデンスを経験した彼の言葉で興味深かったのは、世界各地の都市から戻ってきた後の、ケニヤの風景に対する意識変化についてです。40以上のコミュニティに分かれるケニヤという母国に改めて興味を持ち、ケニヤのレジデンスにも参加しているそうです。もしケニヤから出ていなければ知らなかった感覚を彼が獲得し、それをケニヤに持ち帰ってくるという事。レジデンスにおけるネットワークの重要性が、ここで感じられると思います。

次にプレゼンテーションをおこなったのは、中国人アーティストのリュウ ルーシャンさんです。

劉璐(リュウ ルーシャン)

アーティスト。中国北京生まれ、東京在住。ロンドン芸術大学ウィンブルドン校修士課程修了。東京藝術大学大学院 映像研究科メディア映像博士後期課程修了。国境・多文化・移民・子ども・女性・マイノリティ・貧困・メディアなどのテーマに関心があり、映像・パフォーマンス・コミュニティアートによる表現活動や多様性理解につながる教育研究活動を実践してきた。これまで中国、韓国、インド、日本などでAIRに参加。京都芸術センターのプログラムに2012年に滞在制作を行う。市民向けパフォーマンスワークショップを企画した。

劉さんは10台の頃に日本へ移住し、17歳で長期留学でカナダへ行き、その後ロンドン大学へ進学しました。彼女はこれまでアジアを中心に様々なレジデンスに参加し、アートがマイノリティのエンパワーメントに貢献できる事を自覚しつつ、制作活動を行っている。彼女はAIRの参加意義として、3つの項目をあげていた。

1:分野を超えた出会い
2:国境を越えた出会い
3:出会いからの協創空間

レジデンス施設には、様々なアーティストが来訪する。いつもなら出会えないような他分野の専門家や人種を超えた出会いができる場所であり、そこで一緒に創造活動が行われる、という魅力を話してくれた。そして、それらがより社会と共に継続されていくためにも、アーティストのみならず、教育者や文化人など、多様性をもった専門家との協創、そしてアートの視点があるからこそ可能なマイノリティのエンパワーメントの重要性を指摘していた。

そして、最後にプレゼンテーションをしてくださったのは日本人作家の三原聡一郎さん。

三原聡一郎(みはら そういちろう)

アーティスト。京都在住。音、泡、放射線、虹、微生物、苔など多様なメディアを用いて、世界に対して開かれたシステムを芸術として提示。2011年より、テクノロジーと社会の関係性を考察するために空白をテーマにしたプロジェクトを国内外で展開中。日本を含め5カ国経験したAIRの中でも西オーストラリア大学のバイオアートラボSymbioticAでの滞在制作では医学、生物学を跨いだ芸術実践を行う。近年の個展に、「空白に満ちた場所」(京都芸術センター, 2016)、グループ展に「科学と芸術の素」(アルスエレクトロニカセンター, オーストリア, 2015−16)、茨城県北芸術祭(常陸太田市エリア, 2016)など。

三原さんは現在、土の中に居る微生物が発電する装置を使ったアート作品を制作、発表している。もともとエンジニアとして活躍していた彼は、旅<AIR<住 の方程式でレジデンスを捉え、AIRに参加するという事は、常識を無くしたり、増やしたりする事だと言う。彼が2015年に滞在したオーストラリア大学のバイオアートラボは、様々な科学技術を顕在化する方法としてアーティストを招聘し、専門家と共に研究活動を行う特徴的なレジデンスプログラムだ。彼が、「人類の自由なふるまいを、アートの名のもとに実行可能ならば、それだけでアートには価値がある」と言っていた事が今でも心に残っている。

3人が三者三様のプレゼンテーションをした後、モデレーターの日沼さんが、それぞれの作家が指し示すアーティスト・イン・レジデンスの意義と可能性を称賛した。世界各国を移動しながら生きているアーティストは、ある意味で人種の制約から距離を置いた地球人とも言える。流通が進み、情報化が加速する現代において、この地球人としての視点は、より一層重要になってくるだろう。そして、その存在を体現するアーティストが、創造の時代を開いていく事に期待したい。

また、アーティストたちが様々な特徴的なレジデンスに行っている事が印象的な第一部だった。現在、レジデンスの形式やテーマは多様化しており、様々な特徴的なレジデンスプログラムが生まれている。そういう大町の原始感覚AIRも、美術祭と連動する独特のレジデンス形態として、アーティストの間で静かに注目を集めている。大町の自然の中に入り、原始的な感覚を発揮した滞在制作をアーティストに求めるこの面白さを、ぜひこの機会に想像してほしい。

原始感覚美術祭 http://primitive-sense-art.nishimarukan.com/index.html

第二部へ続く

 

アーティスト・イン・レジデンス シンポジウム2017

日時:2017年2月4日 (土) 13:30-17:00
会場:京都芸術センター 講堂
第一部:ディスカッション(13:30-15:00)「移動することと創作活動」

《登壇者》
James Muriuki(アーティスト、キュレーター)
三原聡一郎(アーティスト)
劉璐(アーティスト)

《モデレーター》
日沼禎子(女子美術大学准教授、陸前高田AIRプログラムディレクター)

 

主催:京都市、京都芸術センター
共催:特別協力:奈良県立大学
後援:文化庁、関西広域連合
URL:http://www.kac.or.jp
問合せ先:京都芸術センター
TEL:075-213-1000
E-mail:info@kac.or.jp