「AIRネットワークの活用」アーティスト・イン・レジデンス シンポジウム2017 in 京都芸術センター 第2部
数年後に文化庁の移設が決定した京都の芸術拠点、京都芸術センターで開催された、日本各地で多彩に展開されているアーティスト・イン・レジデンスを考察するシンポジウムに出席してきました。
アーティストが一定期間、普段の創作拠点とは別の地域・国に滞在すること、またそのための活動であるアーティスト・イン・レジデンスプログラムは、創作活動の場の拡大、アーティストと市民とが交流する機会の創出、地域の魅力を再発見することなど、そのプロセスがもたらす波及効果は多方面にわたると考えられます。そして、シンポジウムではアーティスト・イン・レジデンスとネットワークに焦点をあてています。人が移動することが前提となるアーティスト・イン・レジデンスでおのずと網の目のように構築されるネットワークに注目し、そんなネットワークをどのように整備し、活用していくことができるのか。またそのネットワークをどのように地域に還元できるのか。世界各地で活動するアーティストと、ネットワークを活用し活動を展開するアートセンター等から登壇者を招き、2部構成で開催されました。
第二部「ネットワークの活用」は、文化庁文化芸術創造都市振興室長の佐々木雅幸さんがモデレーターを務め、美術館、レジデンスネットワーク、劇場、アートセンター等の様々な分野で活躍する女性ディレクターが集結し、それぞれの仕事の紹介と、これからのレジデンスの可能性について語った。
最初にプレゼンターは、中国の成都市にあるA4美術館のディレクターを務めるソンさん。
孙莉〈Sunny Sun〉(ソン リ)
キュレーター、LUXELAKES·A4 Art Museum(旧A4 Contemporary Arts Center)アートディレクター。2007年より現代美術の展覧会や関連する教育普及事業等を企画する。2008年にA4 Contemporary Arts Centerを設立。中国でも数少ない非営利の芸術施設として、芸術理論、アートプロジェクト、現代美術教育に力を入れる。これまでに若手アーティストを中心として30以上の展覧会を企画、若手アーティストの創作をサポートしている。
A4美術館は、国際的な美術展の他、作家の研究機関としても活動しており、アーティスト・イン・レジデンスプログラムや、若手作家の実験的な活動支援なども行っている。施設としては、展覧会場、レジデンススタジオの他、レクチャーホール、図書館、カフェの他、美術教育センターや、マルチメディアプレゼンテーションホールなども併設する、様々な可能性に開かれたアートの拠点である。今回のシンポジウムが行われた京都芸術センターとLUXELAKES·A4 Art Museumは本年度より連携し、交流プログラムを実施する予定だそうだ。アートの交流プログラムとして、中国と日本の美術館が連携し、作家が行き来できる事は、文化交流としてアーティスト・イン・レジデンスが他に類のない可能性を秘めている事だと改めて感じた。
次にプレゼンテーションしたのは、僕も参加しているAIRネットワーク準備会の事務局長を務める日沼さん。
日沼禎子(ひぬま ていこ)
女子美術大学准教授、AIRネットワーク準備会事務局長。1999年から国際芸術センター青森設立準備室、2011年まで同学芸員を務め、アーティスト・イン・レジデンスを中心としたアーティスト支援、プロジェクト、展覧会を多数企画、運営する。さいたまトリエンナーレ2016ではプロジェクトディレクターを務めた。2013年より陸前高田AIRプログラムディレクター。
日沼さんに初めて会ったのは、僕があさひAIRを始める事になって、いろいろなAIRの勉強会に参加していた時だった。その時、陸前高田のAIRプログラムを見て、特定の土地で作品制作をする事の意義を改めて考えさせられたのを覚えている。移り行く時代の中で、その場所に存在する大切な何かを、アーティストでなければできない形で顕在化すること。東日本大震災の後、数字や言葉では語り切れない空気感がアートによって表現された時、そこにレジデンスプログラムがあったという事の意義は計り知れない。
グローバリズムの中で、それぞれの地域がそれぞれの在り方を問う時代に、AIRが何をもたらすのか。日沼さんは、それぞれの場所の特異性を顕在化する方法としてアートを捉え、それがどの様に運営されているのかを考えるため、日本全国のレジデンス施設をネットワーク化するための活動も行っている。AIRネットワークは、僕のような初心者からすれば、レジデンスを運営する先輩に出会い、学ぶことができる場所だ。そして、多様化するアーティスト・イン・レジデンスというシステム自体を段階的に拡張する事にも、貢献するのではないかと思う。
3人目のプレゼンターは、神戸で演劇系のレジデンス施設、Dance boxを運営する横堀さん。
横堀ふみ(よこぼり ふみ)
NPO法人DANCE BOXプログラムディレクター。神戸・新長田在住。1999年よりDANCE BOXに関わる。劇場Art Theater dB神戸を拠点に、滞在制作を経て上演する流れを確立し、ダンスを中心としたプログラム展開を行なう。同時に、アジアの様々な地域をルーツにもつ多文化が混在する新長田にて、独自のアジアのプログラム展開を志向する。
ちょうど、今(1月7日―2月6日)Dance Boxに滞在しているキム・ジュトク氏は、新長田の在日コリアンコミュニティと、国内ダンス留学@神戸の参加者と一緒にコンテンポラリーダンス作品をつくりあげているそうだ。横堀さんは、地域のリソースの上につくる作品と、純粋にアーティスティックな製作には差があるかもしれないけれど、それの2つを分けずにプログラム構築をしていきたい、と言っていた。それはレジデンスのコーディネーターとしてすごく共感する挑戦だ。そして、ダンスボックスがコンテンポラリーダンスを中心に活動する理由に、地域でアートをする事への共感を感じざる得ない。
「ダンスは様々なアートのなかで、<身体>で、あるいは<身体>を表現することが際立った特性になっています。元来、神への捧げものとして踊られていたダンスが、やがて劇場のなかで観客に向かって踊られるようになり、近代舞踊史がつづられてきました。
高度に情報化された現代社会に生きる私たちの身体は、増々孤立化しているようにみえます。劇場でダンスを観ることで、私たちはどれほど、その孤独から解放されるのでしょうか。生身の身体が出会う<場>として、どのような交感がおこるのでしょうか。」
純粋に、ダンスのもつ力、アートのもつ力を信じて、世界をよくしていく事。そのために「良い作品、良い作家」を自分の住んでいる地域に呼ぶための、アーティスト・イン・レジデンスという可能性を感じた。
そして最後にプレゼンしたのは、京都芸術センターの山本さん。
山本麻友美(やまもと まゆみ)
京都芸術センター チーフプログラムディレクター。主に京都芸術センター事業の統括と「東アジア文化都市2017京都」コア期間事業のキュレーションを担当。専門は現代美術史、メディアアート論。2000年の開館時からアート・コーディネーターとして伝統芸能やアーティスト・イン・レジデンス等の事業を担当。京都芸術センターとして多様な新しい表現を積極的に支援するプログラムを実施している。
山本さんが最初に言っていて面白いなぁと思ったのは、過去18年間に、京都芸術センターにレジデンスに来た作家たちの事。世界50か国以上からレジデンスに参加したけれど、アーティストの国籍は、生まれた場所、所属する場所、住んでいる場所がバラバラな事も多く、資料として意味がない、と言っていた。日本に住んでいるとわかりにくい事実だけれど、世界はもうすでにかなり混ざり合っていて、特にアーティストという職業に就くような人たちは、国という概念から自由になりつつあるのではないかと思う。
また、京都芸術センターらしい提案だと思ったのは、京都に存在している多くのマイクロレジデンス的な施設をまとめて、海外からの問い合わせを一手に引き受ける事のできる組織として、複数団体合同で立ち上げることが可能であれば、面白いという話だった。確かに、海外への広報にかける労力と効果の両面から見て、複数団体合同で実施するAIRプラットフォームは、各地域であっていいのではないかと思う。
4名の女性ディレクターはそれぞれ、レジデンス施設の社会的な意義を、まったく別の視点から見せてくれたように思う。そして最後に、文化庁文化芸術創造都市振興室長として創造都市政策を牽引する佐々木雅幸さんが、「レジデンスを継続する力が、大切」と言っていた。大町には、メンドシーノ国際交流事業として、1980年代から続く工芸系の芸術文化交流事業がある。2008年より本格的に復活し、隔年で作家たちが大町とメンドシーノを行き来して展覧会を開催し始め、2017年に10年目の節目を迎える。グローバルとローカルを橋渡しする現場として、2017年のメンドシーノ国際交流展にも、ぜひ注目してほしい。
メンドシーノ国際交流 http://www13.plala.or.jp/masamiyo/mendocino.html
アーティスト・イン・レジデンス シンポジウム2017
日時:2017年2月4日 (土) 13:30-17:00
会場:京都芸術センター 講堂
第ニ部:ディスカッション(15:30-17:00)「ネットワークの活用」
《登壇者》
孙莉(A4 Art Museumディレクター)
日沼禎子(女子美術大学准教授、陸前高田AIRプログラムディレクター)
横堀ふみ(NPO法人DANCE BOXプログラムディレクター)
山本麻友美(京都芸術センターチーフプログラムディレクター)
《モデレーター》
佐々木雅幸(文化庁文化芸術創造都市振興室長)
主催:京都市、京都芸術センター
共催:特別協力:奈良県立大学
後援:文化庁、関西広域連合
URL:http://www.kac.or.jp
問合せ先:京都芸術センター
TEL:075-213-1000
E-mail:info@kac.or.jp
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