若一王子祭り2016‖地域が一丸となったお祭りに私は終始感動しっぱなしでした

若一王子祭り2016‖地域が一丸となったお祭りに私は終始感動しっぱなしでした

7月の半ばから大町駅前市街地の夜の時間は、どこからともなく笛や太鼓のお囃子の音色が聴こえてきます。

夜になると人がいなくなる駅前アーケードとか、裏路地感と夜の街の雰囲気漂う日の出町とか、暗闇に不夜城みたいに浮かび上がる名店街とか、塩の道本通りの大きな蔵造りのお屋敷とか。

大町の夜の町はなんとなく、いつかの時間をそのまま置き去りにしたような不可思議な雰囲気に満ちていて、日常がなんだかドラマチックなんです。

そんな町中から聴こえてくるお囃子の音色は、すごくすごく情緒的で「嗚呼、もうすぐお祭りが始まるんだな。気がつけばもう夏の真っ只中なんだな。」って、きっと大町の町中で暮らすみなさんはそんなことを感じているんだと思います。

 

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こんにちは。AIR MAGAZINEライターのたつみです。
今回は若一王子(にゃくいちおおじ)神社の夏のお祭りのことを書きたいと思います。

毎年7月の第4週の土日に開催される【若一王子祭り】

今年は7月23日(土)24日(日)に開催されました。
お祭りの開催エリアは信濃大町駅から若一王子神社までの徒歩25分程の範囲で、お祭り前夜からの3日間、大町市街地はお祭りムード一色となりました。

 

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-若一王子祭り?

7月第4週の土日に大町駅から若一王子神社までの大町市街地で開催される大町市最大のお祭りです。
700年余の歴史があり、10騎の子ども流鏑馬(長野県無形文化民族文化財)/6台の舞台の曳き揃え(お囃子)/稚児行列などが奉納されます。

重要文化財に指定されている本殿/長野県宝に指定されている三重塔など、荘厳な雰囲気を醸す神社境内には出店が立ち並び、大町に人が溢れる大変賑やかなお祭りです。

◯執り行われる奉納/行事
<23日(土)>
・八坂神社渡御祭(神輿)
・稚児行列
・舞台曳き揃え獅子神楽競演(宵祭り/舞台/お囃子/神楽)

<24日(日)>
・流鏑馬
・舞台(舞台/お囃子)
・のぼり
・神事
・喧嘩囃子

二日間のお祭りは以上の奉納/行事が執り行われます。

10騎の子ども流鏑馬(六九町/白塩町/北原町/上仲町/下仲町/南原町/仁科町)/6台の舞台(大黒町/九日町/堀六日町/高見町/八日町/五日町)が一堂に会する日曜日の日中の駅前本通り、夜間の神社境内の迫力は圧巻で、大変人気の高いお祭りであることが伺えます。

-写真で見るお祭りの様子

<24日宵祭り>
宵祭りは駅前本通りが歩行者天国となり、6台全ての舞台が揃います宵祭りは駅前本通りが歩行者天国となり、6台全ての舞台が揃います。

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商工会前では獅子神楽が披露されています。

tatsumi_信濃大町若一大路祭り_宵祭りレイチェル-4宵祭りには「開運帖」が配布され、各町の舞台でスタンプがもらえます!全部そろえるといいことあるかも。

<25日本祭り>
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本祭り当日の午前中は、各町で町内をこのように周ります。この様子は高見町の舞台。

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午後からは駅前本通りが歩行者天国となり、各町の舞台が集まります。

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大町市街地北側の三日町から駅前本通りを流鏑馬10騎が南下し、信濃大町駅前で奉射が行われます。

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三日町→駅前本通り→信濃大町駅から五日町へと一団は進み、五日町の通り(旧塩の道街道)で一旦休憩に入ります。


動き出した一団は旧塩の道本通りちょうじや前で、西宮神社に向けて一礼をし、若一王子神社へと北上します。

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tatsumi_信濃大町若一王子祭り2016_70日の落ちた若一王子神社境内。三十塔の横には全ての舞台が揃います。

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一日の大役を果たした流鏑馬のお子さんはお祓いを受け、地面に足をつけずにまた馬に戻り帰路につきます。

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神社がある大黒町の舞台(右)が三重塔前に鎮座し、各町の舞台が横につき喧嘩囃子が行われます。
軽快で賑やかなお囃子はとても攻撃的で、お互いの威信をかけた演奏が行われます。

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境内を後にした各町の舞台(大黒町以外)は境内裏の格納庫に格納されます。
これで2日間のお祭りは盛大に幕を閉じました。

私は今回このお祭りへの参加は初めてで、二日間ずっとカメラを片手にお祭りを楽しみました。
私は冒頭にも書いたように、大町の町並みはとても情緒的で美しいと感じております。

日常を過ごす空間の至るところに、歴史や文化が存在していて、カメラを持って歩くと思わずシャッターを切りたくなる日常に出逢うのです。

そんな大町の町中にこれだけの人が一堂に会し、各町を挙げて取り組むお祭りはとても綺麗で、熱く、その心意気や映し出される景色は、とてもとても素晴らしかったです。

この記事を書くにあたり、お祭りを支える人たちの声を聞かせていただきました。
お祭りの花形である舞台の中で、お囃子を演奏する高見町の囃子方の皆さんについてを、以下に記します。

 

AIRブログ_高見町集合写真

-高見町のお囃子

「さぁて。そぉりゃ。」
掛け声と共に息のあったお囃子の演奏が始まります。

お祭りの3日前、私は大町市高見町の公民館を訪れておりました。
高見町は駅前アーケードを北に進んだ西側の町で、市立大町総合病院付近のエリアです。

お祭りのこととお囃子のことを学ばせていただくため、高見町在住の大町舞台囃子保存会長である勝野元之氏と高見町のお囃子の皆さんにお話を伺い、お祭り当日も同行させていただいたのです。

tatsumi_AIRブログ_高見町お囃子練習

tatsumi_AIRブログ_高見町お囃子

お囃子は小中学生13名/大人11名が参加しております。
演奏される楽器は篠笛(四本調子7穴)/つづみ/おおわ(つづみを大きくした楽器)/太鼓/締め太鼓/鐘。
演奏される曲目は、雑囃子11曲/道中囃子1曲(お宮に向かう最中)/奉納囃子1曲(境内)。

曲目は全ての町が同じなのですが、聞くとどこの町も笛の調子や穴の数が違うらしく、同じ曲でも全然違ったように聴こえるんだそうです!これは不思議。

7月上旬から毎夜このように練習をしているそうで、私が伺った時にはすでに素人の耳には完璧なお囃子が演奏されておりました。
お子さん達も一生懸命練習されていて、素敵な音色が奏でられておりましたよ。

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中央:勝野氏

勝野氏は高見町に生まれ、学生時代から数年を東京で過ごされ、24歳のときに高見町に戻ってきたそうです。
昔からお祭りが大好きで、お囃子の音色はずっと染み付いていたそうです。

戻ってきてから毎年お囃子をされていて、いまでは高見町囃子方代表としてお祭りを引率し、同時に大町舞台囃子保存会長/氏子青年会長も務められているのだとか。

「お祭りは、好きどころか夏に命をかけてます!」
そう勝野氏は話ます。

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高見火荒神の御神体の獅子頭

高見町はお祭りでは舞台曳き揃えを行っており、舞台は各町によって二階の飾りが異なります。
高見町は、高見火荒神(ひこうじん)の御神体の獅子頭を飾っており、公民館に安置されている雌の獅子頭は宵祭りに、祠に祀られている雄の獅子頭は本祭りで飾るとのことです。

頭から伸びる幌は大変に古びておりますが、話によると、この幌を取り替えると災いが起こるという言い伝えがあるとのことで、この幌を長きにわたり使い続けているのだそうです!

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本祭りの朝10時から高見町の公民館から舞台は町内をゆっくりと進みます。
舞台を引くのは年番(ねんばん)と呼ばれる町内の人たちで、朝からお囃子の皆さんは夜の舞台格納まで1日演奏を続けます。

年番にもお囃子にも、時間によってはお子さん達もこのように混じります。
10年ほど前まではお囃子は大人しか演奏できない決まりがあったとのこと。

「高見町も子供の数がどんどん減ってきてるんですよね。」
勝野氏が小さかった頃は同級生がたくさんいたらしいのですが、いまでは小学生は一学年に一人程度しかいなくなってしまいました。

「人が減っていくことで、これからいままで以上に後継者が育ってこなくなってくる。伝統芸能は地域にとってとても大事なことなので、先細ってもどうにか続けていきたいと思っています。」
お祭りは地域の元気の源で、これからもずっと受け継いでいきたいものだと勝野氏は考えます。


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合間の休憩中の一コマ。お祭りなので、朝からビールで乾杯。なんとも清々しい!

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本祭りが始まるお昼の光景。
駅前本通りには各町6台の舞台が集まります。
これから流鏑馬の行列の後に続き、駅前から五日町を巡り、夕方にはこの地点に戻り、北上し神社を目指します。

 

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お宮でお祓いを受けてから、大黒町の舞台と喧嘩囃子を行います。
お祭りのクライマックスはとても興奮するものでした。
二台の舞台から聴こえてくるお囃子の迫力は凄まじく、写真を撮りながらも聴き入ってしまいました。

この後舞台を格納し、お祭りは無事終了となりました。

 

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高見町お囃子方の皆さん

「お祭りが終わると、ぼく泣いちゃうんですよね。」
そんなことを話していた勝野氏。

地域が一丸となったお祭り。
祭りの後の帰路はなぜか切なくなってしまいます。
私は取材でお祭りを楽しんでいた一人でありましたが、なんだか勝野氏がおっしゃっていたことがよくわかった気がします。

「嗚呼、これでお祭りは終わってしまったんだな。」と。

祭りの翌日、大町はいつもと同じ日常で、いつもと同じように町は時間を動かしておりました。
日常の中で、仕事であったり、家のことであったり、一人一人が各々の時間を過ごします。

その中で、「命をかける。」という勝野氏のような方がおられるからこそ、700年もの時の中で続いている地域のお祭り。
私にとっては、屋台を巡るだけの夏のイベントに過ぎなかったお祭りが、このように関わる人をとおし、違った目線でお祭りのことを知ることができました。

この二日間、私は終始感動しっぱなしでした。

また来年も、たくさんの方々の想いにより続けられるこのお祭りに。
私もまた参加したいと思います。

「また、来年。」
が、いつまでも続きますように。

今回取材にご協力いただいた高見町のみなさん、そしてお祭りに関わったたくさんの地域のみなさん。
素敵な時間をありがとうございました。

記事&写真:
たつみかずき