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ディレクターズVoice #4

文|総合ディレクター 北川フラム

仁科三湖エリア

 仁科三湖エリアと名付けられた地域、今日は木崎湖畔のキャンプ場と、そこから湖水に張り出したデッキを使ってのアオイツキ(アオイヤマダと高村月のユニット)の公演を見た。今春の内房総アートフェスでは、小林武史の全公演に参加し、私はその身体のかろやかな動きと言葉と音楽、衣装のナチュナルな浸透ぶりに気持ちが良かった。この日の公演は人々の日常を冬の精に変えて観衆に楽しく受け入れられていたことを報告しておきます。

 近くには前回から引き続いてブラッシュアップした木村崇人の「光の劇場」があります。敷地内部に桟橋やボートを入れ込み、湖の水と光を楽しもうと工夫していて、作家ならではの空間をつくっています。佳品です。

 そこから少し行った半島のような場所はかつての仁科氏の水城で、武田信玄が上杉謙信勢の押さえとしたもので今も人々に支えられて仁科神社となっている。ここの鎮守の森には二層の円環から無数(14000個)のレンズが吊り下げられていて、周囲の光を反射してこの上もなく美しい空間をつくっている。人々はその雰囲気に惹きつけられ、誘われる。その光のすだれの中の中心の木のまわりには、もともとの木についていたような木製の低いベンチがまわっていて、これが気持ちが良い。前々回参加したカナダの若い二人のユニットであるケイトリンとウェインは木崎湖の廃業した旅館を白布で美しく覆ったが、今回はこの間の修練を見事に感じさせる出来だった。

 対岸には信濃木崎夏期大学の180畳の講堂があって、そこで八坂の奥に住むユニット折りの世界の巨匠・布施知子が力作を展示していて、3つほどのタイプの作品が30点ほど展示されていて圧巻です。この大学は大正6年に開講した日本で最初の市民大学で、現在も続けられています。錚々たる講師陣(初期の大正時代だけでも吉野作造、後藤新平、前田多門、河上肇、田辺元、阿部次郎、鳥居龍造、和辻哲郎、有島武郎、長与善郎)の名があって自由民権運動、日本の出版文化に貢献した信濃の誇りが感じられます。

 そこから国道148号線を少し行って森に入ったところに、北アルプス林研グループの作品があります。大町には東と西の植生が混在する魅力があります。日本の林業の厳しさはこの地域でも直撃しています。ここで働く木こりさんは、その現実を直視して、今回27本の杉の木を間伐し、木の上の葉から枝、木肌まで全部を利用した木の記念樹をつくりました。その熱意には頭が下がります。

折り紙による「紙の庭園」
布施知子
森づくりアート
北アルプス林研グループ

 中綱湖近くにあるラーバン中綱の体育館にはコタケマンの巨大なキャンバス(縦30メートル、横15メートルの絵を3つに分けて展示)に描いた土の絵画が三幅、館全体を覆いつくすように被さっていて、質量ともに圧倒されます。私はグラウンドで3日間お祭りをやると思っていたのでびっくりしました(そのお祭りの映像も面白い)。氏の美術家としての力量を改めて知ることになりました。是非寄ってください。体育館の隣につくられたカフェには蠣崎誓の大町の花・実を使ってつくりあげた「種の民話」があり、これも作家の誠意が感じられて良い作品です。この2階にはYAMANBA(街歩き、民話の会、食研究会)の女性陣が頑張っている公式レストランYAMANBAがあります。いつものことながら工夫されていて美味しかったです。

やまのえまつり
コタケマン
種の民話 ーたねのみんわー
蠣崎誓
YAMANBAガールズによる調理風景

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