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ディレクターズVoice #5

文|総合ディレクター 北川フラム

ダムエリア、源流エリア

 第3回の北アルプス国際芸術祭では、水・木・土・空という地域を形づくる空間要素のうち、木をテーマにした作品が集中していますが、コタケマンとルデル・モーは土に拘っています。また、前々回から淺井裕介の大町エネルギー博物館外壁の壁画は、20種を超える土地の土を使った大作で、今も周りの風景に馴染んで存在感がある気持ちの良い作品です。船川翔司の作品がある山岳博物館とともにこの博物館にも寄ってください。

 エネルギー博物館から大町の3つのダムに向かう道は、高度成長期につくられた落ち着いた雰囲気のある別荘地となっています(日向山別荘地)。そういえば昔はヘンリーミラー美術館もあったなぁ。

 温泉郷には酒の博物館があり、それは閉館しましたが、施設の展示を使った松本秋則の「アキノリウム in OMACHI」の風の流れを竹が受けるサウンド・オブジェがあり。これは人気です。

 そこから大町ダムを見ながらの七倉ダムへの道は高瀬川の渓谷沿いで素晴らしく、ほぼ毎回猿の家族に出会えます。そういえば前回も七倉ダムに猿と鹿がたくさんいて嬉しかったことを思い出しました。彼らも嬉しかったのかしら。ここで磯辺行久は日本海側からの偏西風が実に多くの影響を地域に与えているかを吹き流し150本を使ってダイナミックに展(ひら)いている。船川翔司の作品も風を含む気象をテーマにしています。

 北アルプスからの雪解け水や湧水が夥しいのが鹿島川流域の「源流エリア」で、ここの越荒沢親水公園に入ったところには、パレスチナ出身のダナ・アワルタニが幾何的な不思議な立方体を木材でつくりました。彼女は出身地である死海沿岸の塩の結晶構造を大町の歴史的な塩の道とつなげてこの構造を提起しましたが、この制作はインストーラー泣かせのもので、彼らの知恵と工夫と労苦には頭が下がります。しかしよく出来ている。是非見てください。砂漠のイスラムと濃厚なアジアの樹林帯を想起させてくれます。外国人にとっても日本の土地でのサイトスペシフィックな作品の良い例でした。

 近くの北アルプスエコパークには、2017年につくられた川俣正の木のウッドデッキが樹林のあいだを走っています。

 まさに源流エリアの作品と言えるのが、北アルプス国際芸術祭が始まった2017年より3年前からつくり続けているのが「宮の森自然園」という近くに畑などもある日常の空間での平田五郎の作品です。これは上流の「ホタルの里」から流れてくる水路を「宮の森自然園」につなぐ地点に、石でできた蓮の花の彫刻がある水場をつくるというもので、氏の仕事はとかく埋もれ失いがちなその水路をささやかに守り整備するというもので、これぞサイトスペシフィックな活動で、その長年にわたる誠実な関わりに私は敬意をもってきました。オブジェがまた素晴らしい。まさにArtist Artistの仕事です。熊に気を付けて是非寄ってください(先ほどの越荒沢親水公園もそうですが、気持ちの良い林と気持ちの良い小川は熊も好きなのです)。

 この近くには須沼神明社があり、その神楽殿に宮山香里が絹布を16枚、扉のように吊るしています。それは松の形の木版による墨の型押しで、濃淡がさわやかで、まさに天から地上に降りてきた感じですが、イメージは百様です。尾形光琳が「燕子花図屏風」でやったような見事な冴え。気持ちが良いです。

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