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ディレクターズVoice #1

 文|総合ディレクター 北川フラム

 この9月13日から開催される北アルプス国際芸術祭の準備が始まっていて、私も月に1,2度は現地に伺います。7月末にも伺い、2つの作品を見て期待が膨らみましたので、その回想録です。

 最初に八坂の相川トンネルに行きました。このトンネルは旧いトンネルで今は使われておらず、片方は土砂崩れの危険があったので、反対側から入り途中で引き返すという決定をして、作家のルデル・モーには来日直前に「通り抜けできない」と話した経緯があります。彼女は作戦を変えてどうやっているか、心配と期待をもっての訪問でした。現場近くの車を降りたところには石碑があって、この地が全国山村留学発祥の地であると書かれてありました。「農の心 人をつくる」と彫られてある。そういえば名女優・若村真由美さんも小学校の2年間、ここで過ごしたと聞いたことがありました。今は合併して大町市に編入されている八坂や美麻は、私の世代の小学校の教科書の舞台によく使われた、自然と人と農と生活がほどよく溶け合った理想郷に思えるのです。

 さて暗いトンネルには大きな竹で編んであるオブジェが、巨大な力強い魚のようなうねりを見せています。ルデルはここで昼にバナナを摂る以外は働き続けているとスタッフに聞きましたが、3人のアシスタントも真っ黒になりながら、でも明るく作業されていました。このオブジェは今後土で塗り固められるのですが、このままでも見てもらいたいくらい。私はすっかり元気になりました。 

 次に私は八坂の公民館に行きました。前回コロナ禍で来日が叶わなかった台湾のヨウ・ウェンフー〈游文富〉の作品は、建物を竹で覆うというものですが、これも想像したものとは全く違う、竹というしなやかな素材がうねって様々な曲線を描き、波のように建物を包み込んでいるのです。うまく説明ができませんが、外からも眺め、入り込み、その変化に促されながら中に入りまた異なった景色を楽しみながら歩き廻れるというものです。八坂の人たちは2017年にのロシアのニコライ・ポリスキーが来日した時も竹を扱い全力で制作に参加し、2021年のリモートで参加したヨウ・ウェンフーの作品は50万本の竹ひごを地面に刺すという、すごい労力をかけて協力してくれた地域です。今回の作品は彼らにどのように捉えられたか聞いてみたい。いずれにせよ今まで見たこともない造形で、うれしくなりました。ヨウ・ウェンフーは家族と職人さんのグループで来日していたし、余った竹をいただきに来た参加作家のコタケマンや村上慧さん、船川翔司さんも来ていて、作品の出来上がりも待ち遠しい、賑やかで爽やかな時間を過ごせました。

 北アルプス国際芸術祭は進み始めています。乞うご期待です。

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