ニュース

おおまちストーリー #08

※こちらは、北アルプス国際芸術祭2021のアーカイブ投稿となります。

大町に住む「土の人」へ
大町に訪れた「風の人」が訊く
大町ならではのプリミティブな物語

地元に住み続けその土地に詳しい人を
「土の人」と呼び、
旅行者や移住者などを
「風の人」と呼ぶことがあります。
「風の人」は「土の人」から大町を知り、
「土の人」は「風の人」から
大町の魅力を再発見します。
二つの異なる性質が混ざり合い
共鳴し合うとき 「風土」のようなもの
=「おおまちストーリー」
が生まれるのです。 

聞き手:稲澤そし恵(風の人)

仁科三湖から始まる女子旅のススメ
〜大町の湖畔のアートとおいしいもの巡り~

お話してくれた「土の人」

西澤彩(にしざわ あや)さん

大糸タイムス記者。
大町市平生まれ、33歳。
県内短大を卒業後、大糸タイムスに入社。
2014年から2016年までは
第19代「観光PR大町レディース」としても活躍。
趣味は食べ歩き、旅行、アート鑑賞。

大町市を南北に縦断する「塩の道」沿いには、湖が三つ連なっています。青く深く美しい青木湖、四季折々の表情を楽しめる中綱(なかつな)湖、スポーツやキャンプが盛んな木崎湖。合わせて「仁科三湖」と呼ばれ、市民に親しまれています。そんな大町市の有する美しい三つの湖のほとりも、北アルプス国際芸術祭のアートサイトの一つ。湖畔沿いに生まれ仁科三湖をこよなく愛する西澤彩さんに、水辺の暮らしや大町のグルメについてお話しして頂きました。


ーローカル新聞社の記者として活躍している西澤さん。日々どのような仕事をされていますか
私は生まれも育ちも大町市で、県内の高校と短大に行きました。地元で就職したいと考えていたとき、ふと思い出したのが亡くなった祖父がローカル新聞「大糸(おおいと)タイムス」を読んでいた姿だったんです。昔から地域で読まれている新聞だし、報道に興味があったので試験を受け入社しました。
記者になって最初に覚えたのは道です(笑)ずっと大町に住んではいましたが、子どもの頃は電車や家族の運転する車で移動してたので、道を全然知らなかったんですよ。次に覚えたのは一眼レフカメラの操作で、機能の多さに最初は苦労しました。でも、慣れてくると不思議と報道用の写真が撮れるようになるんですよね。取材ではできるだけその人らしい表情を捉えることや、その場の雰囲気が伝わるような写真を撮ることを心がけてます。
入社当初は警察担当で、警察署や火事現場・事故現場に行っていました。出稿までは時間がタイトなことも多く、取材する量も地域密着な分、恐らく他社よりも多い。1日に数本抱えて、それを全部その日の出稿時間までに提出するので、(パソコンのキーボードを)打つ速さだけは本当に鍛えられました(笑)
記者は取材対象者の都合に合わせるのも仕事で、地域の方から連絡があって飛んでいくことも多いです。連絡が来るって地域に信頼されててとてもありがたいです。私自身も体験しながら取材をしたり、地元に住んでいても知らないこともたくさんあって。大手だとできないような細やかな取材ができるのもローカル紙の強みだし楽しいですね。読者さんも近いからお礼を言われることもあって、この仕事をしていて良かったなと日々思っています。
仕事と同時並行で大町市の観光PRを担う第19代「観光PR大町レディース」をさせて頂いたこともありました。2014年から2016年の2年間にわたって大町市の広報担当としてテレビやラジオ、イベントでの観光宣伝活動を各地でしました。県内外へ出張も多く仕事との両立が大変でしたが、とても良い経験をさせてもらいましたね。今までは記者として地域の人に大町を伝えていましたが、地域の外の方に大町に来てもらいたい気持ちを直接伝えるのは初めての経験でした。どうやったらうまく伝わるんだろうって、毎回悩みながら参加してましたね。PRイベントのステージに立つときはいつも緊張してましたが、でも楽しかったなぁ。

ー 仁科三湖の真ん中にある中綱湖の湖畔に住む暮らしぶりを教えてください
大町には北から青木湖、中綱湖、木崎湖の三つの天然湖があります。合わせて仁科三湖というのですが、私は毎日中綱湖を見て育ちました。夏は湖からの風が天然のクーラーみたいで、とても涼しくて過ごしやすいです。そのかわり雪はめちゃくちゃ多いですよ。子どもの頃は2階から飛びおりても平気なぐらいの雪が積もったんです。ここ最近はさすがにそういうことはないですが。スキー靴を履いて歩いて行けるぐらいスキー場が近くにあるので、よく遊びに行きました。
中綱湖は春はオオヤマザクラが有名で、たくさんのカメラマンが撮影にいらっしゃいます。年によって全然色合いが違うので、濃いピンク色のときもあれば白っぽい年もあり毎年楽しんでいます。夏は釣りの大会があってヘラブナやブラックバスなど、いろんな世代の方が釣りにいらっしゃいます。秋は紅葉、冬はワカサギの穴釣りで。昔は毎年氷が張って穴釣りができましたが、ここ最近全面結氷することは減りましたね。
中学と高校はJR大糸線で通いました。時間ぎりぎりで簗場(やなば)駅まで走ることもありました(笑)電車に乗っていたり車を運転していると感じますが、木崎湖の南側にある「木崎湖トンネル」から天気違うことが多い気がします。こっちは晴れてるのに向こうは吹雪いてたとか……、地域が違うのが実感できます。そんな冷涼な仁科三湖の独特な空気感が好きですね。心を無にできる何にも阻まれない環境が湖畔にはあるんです。

ー 青木湖や木崎湖について、どんな思い出がありますか
青木湖は旧道から白馬方面を眺める景色が感動的ですよ。晴れた日には白馬の山々が見えて。国道148号を走りながらでも見えるんですけど、やっぱり下に降りて湖岸の旧道がおすすめですね。冬以外は車で一周できるのでドライブしてみてください。湖岸にある、らあめんはうす「ゼーブリック」のねぎラーメンが好きです。
青木湖で思い出すのは子どもの頃怖かった「青木の赤牛」の話です 。青木湖に伝わる伝説で母牛が対岸に住む子牛を追って湖に入り死んでしまう話なのですが、夕方になると悲しい鳴き声がするというのが怖くて……。小学校のキャンプ合宿がちょうど青木湖で、同級生とおびえた記憶があります(笑)何だかんだ仁科三湖の伝説は覚えてますよね。中綱湖には地震で沈んだ寺の鐘が鳴るという「中綱湖の主」の話もあるんですよ。さすがに鐘の音は聞いたことないですけどね(笑)でも今も地震は多いし水っ気のある土地は地盤が弱いので、土砂崩れは実際あったのかもしれませんね。
木崎湖周辺を初めて歩いたのは大町レディースとして「塩の道祭り」に参加したときですね。やっぱり歩くのは楽しいです。三つの湖に共通していえますが、湖畔を散策するのはおすすめですね。熊が出る可能性もあるので、鈴などで対策しつつ楽しんで欲しいです。「木崎湖キャンプ場」には猫がたくさんいて、猫好きにはたまらない場所です。そうそう「だるまや本店」は木崎湖産の天然ウナギを食べることができるんですよ(要予約)。
青木湖と木崎湖は、アクティビティがいろいろありますよね!手漕ぎボートとかSUP(サップ:スタンドアップパドルボードの略称)とかカヤックとか。中綱湖は小さくて船とか出せないけど、大きな青木湖や木崎湖はそんな遊び方もおすすめです。

ー 記者として元・観光PR大町レディースとして、国際芸術祭の女子旅周遊コースを作るとしたら?
そうですね、まずは我が地元の「仁科三湖エリア」の作品を見て頂きたいです。運転が慣れてない方はぜひ電車に乗って欲しいですね、大糸線は車窓が素晴らしいので。街中もアート作品がたくさんあるので歴史的な雰囲気は「市街地エリア」で感じてもらって、仁科三湖では自然を楽しんでもらいたいです。
宿泊は2パターンあって、大町温泉郷の大型ホテルか駅前にあるビジネスホテルか。ゆったり広々泊まりたければ大町温泉郷です。大町らしいリゾート空間で、私は「黒部観光ホテル」のお風呂が好きですね。 駅前だと最近できた「ホテルルートイン信濃大町駅前」はコンパクトで周辺にお店もあるし何かと便利ですよね。あと少し離れるけどダムエリアにある葛温泉の「高瀬館」。あそこは湯の華もあるし、なんか温泉入った~って感じしますよ。せっかくですから、こういう機会にアートと一緒に大町のお宿で非日常を楽しんでもらえたらうれしいですね。
大町は「黒部ダム」の長野県側の玄関口だから周遊コースに入れたいですが、最高地点の室堂までいくと一日がかりになっちゃいます。国際芸術祭の作品は「源流エリア」や「東山エリア」もぜひ見て欲しいから、やっぱり市内で2泊してもらわなきゃですね!(笑)

ー仕事柄、市内のグルメに詳しい西澤さんのおすすめ情報を教えてください大町を通る歴史の道「塩の道」についても研究されているそうですね
取材で走り回っているので外食の機会は多く、だからおすすめはたくさんありますね!実は大町にはガイドブックに載らないような、おしゃれなカフェ的なお店も結構あるんですよ。若い人向けなら名店街の「ハングリーボックス ユキ」。レトロ喫茶って感じで、オーシャンスパゲッティっていうスープパスタが好きです、すごいニンニクが効いてるんですよ。ハンバーグピラフのスペシャルセットもよく頼みます。
あとおしゃれなお店だと「カフェえんとつ」もいいですね。いっつも混んでるけどピザがおいしいです。「お食事処 三洛」のねぎとろ丼や「麻倉CAFE&BAR」の日替わりもよく食べます。あとは蔵を改装したおしゃれな「欧風家庭料理くんくん亭」の日替わりセットのフライが忘れられないです(笑)大町温泉郷なら「山遊食堂岳」や「天暇楽(てんから)」で出してるチキンステーキがおすすめかな。……おいしいところは、言い出したら切りがないですね(笑)
甘いものならジェラート屋さん「花彩(はないろ)」もすごく好きで、芸術祭は暑いときだからぜひ行って欲しいです。「藤長菓子舗」の餡ドーナツはおいしいし、お手ごろ価格です。新しいパン屋さんだと「頂 BAKERY(いただきベーカリー)」のジャムとマスカルポーネのパンが好きですね、売り切れごめんですが。あとはコーヒーも好きなので休みの日には「自家焙煎 美麻珈琲」や「自家焙煎珈琲屋UNITE」に友達と行ったりもします。
もし女子旅とか一人旅で芸術祭に来るならコンビニでご飯を済ますのではなく、地元のお店入って欲しいと思います。一人でも全然大丈夫ですよ!ただ観光する人に全体的に気を付けてもらいたいのは、休みと営業時間です。日曜日休みだったり、営業時間が短かったりするので事前に確認するのがおすすめです。

ー 北アルプス国際芸術祭についてどのように感じていますか
もともとアートには興味があって、瀬戸内国際芸術祭や新潟の大地の芸術祭を見に行ってました。そんな私でも最初に大町で芸術祭やると聞いたときは、ちょっと不安というか、自分たちの土地にアートがプラスされるのが想像つかなくて。大地の芸術祭では地域とアートがとても融合してるように感じたんです。でもそれは自分が見に行く立場だからそう感じるのであって、いざ生まれ育った地元でやってみたらどうなるんだろうって……。でも!実際やってみたら、すごく良かったんですよ。こんなに大町に人来るんだって驚きましたし、作品を見るのは楽しかったし、私には何ていうか「着地した」ってしっくり感じました。たくさんの若い人が大町を歩いてる光景を見て、地域活性化の起爆剤になってるのを肌で感じました。
記者としては、芸術祭についていいねって意見もあれば、どうなの?って疑問視する声の両方を聴きました。私はどんな物事もそうだと思うんですけど、いろんな考えがあってこそ創意工夫できるというか、確固たる考え方みたいなものが見つかるんじゃないかなって思います。報道する立場としても、安心してみんなが楽しめる芸術祭になるよう、協力していきたいですね。
印象に残っている作品は開幕初日に取材したニコライ・ポリスキーさんの「バンブーウェーブ」です。その写真が翌日の新聞でとても大きく載って、すごい反響がありました。うれしかったですね。あとは取材で五十嵐靖晃さんの「雲結い」や青島左門さんの「花咲く星に」の制作現場の見学やお手伝いさせてもらいました。記者として市民として芸術祭に関われて楽しかったので、市外の友達にもこんなイベントあるから来てよ!ってたくさんPRしちゃいました(笑)誰かに教えたくなるんですよね。
以前企画発表の時に、北川フラムさんに直接お話させてもらったことがあるのですが、本当に大町が気に入ってもらえたんだなぁって感じました。皆川明さんはもちろん存じ上げていたので、メインビジュアルで中綱湖の写真を使ってもらえて、こんなにかわいい雰囲気にしてくれてうれしいです。すごい気に入ってます。今回はコロナ禍で普段通りにできないこともあるだろうけど、どうせだったらたくさんの人に芸術祭を通して大町にある良い所を知って欲しいし、体験してもらいたいです。私も取材させてもらうだろうし、また鑑賞させてもらいます、楽しみですね。

カテゴリー