ニュース

おおまちストーリー #06

※こちらは、北アルプス国際芸術祭2021のアーカイブ投稿となります。

大町に住む「土の人」へ
大町に訪れた「風の人」が訊く
大町ならではのプリミティブな物語

地元に住み続けその土地に詳しい人を
「土の人」と呼び、
旅行者や移住者などを
「風の人」と呼ぶことがあります。
「風の人」は「土の人」から大町を知り、
「土の人」は「風の人」から
大町の魅力を再発見します。
二つの異なる性質が混ざり合い
共鳴し合うとき「風土」のようなもの
=「おおまちストーリー」
が生まれるのです。
 
聞き手:稲澤そし恵(風の人)

大町の3つのダムの 秘話あれこれ
観光地としての巨大建造物の魅力とは

お話してくれた「土の人」

丸山正徳(まるやままさのり)さん

元・高瀬川テプコ館副館長。
安曇野市豊科生まれ、78歳。
昭和36年(1961)東京電力入社後、
各地で水力発電業務に携わり、
平成9年から平成16年まで
高瀬川テプコ館で副館長を務める。
趣味は「志賀大介(大町出身の
作詞家)の詩を歌う会」で歌うこと。

大町市には高瀬ダム、七倉ダム、大町ダムの3つのダムがあります。このエリアは北アルプス国際芸術祭の 「ダム」エリアであり、巨大建造物とアートの織り成すコントラストを楽しむことができます。この3ダムのうち高瀬ダムと七倉ダムに深く関わり、PR施設で広報活動をされていた丸山正徳さんに、ダムの魅力について伺いました。


ー 丸山さんはダムにある発電所にお勤めされたそうですが、どんな仕事をしていましたか
私は高家村(たきべむら、現・安曇野市豊科)出身で県立松本工業高校の電気科を卒業後、東京電力に入社しました。転勤の多い会社で、松本市にある梓川系の水力発電所や信州新町(長野市)の犀川補修所、 朝日村の新信濃変電所など、いろんな施設で電気に関わるインフラに携わってきました。
大町にある3つのダムのうち、高瀬ダムと七倉ダムは東京電力が管理しています。その2つのダムを制御す る「高瀬川総合制御所」に転勤になったのは昭和54年(1979)でした。ダムに水を溜めて安全性を確認するたん水試験のころから保守計画に関わっていてね。高瀬ダム付近の地下にある新高瀬川発電所は24時間稼働してなきゃいけないもんで、8時間ずつ3交代でやりました。「東京電力株式会社 高瀬川第一発電所」って看板は実は私の字です。習ったわけじゃねぇけど、習字が趣味だったから頼まれて……名誉なことです。仕事は一生懸命やったね。遊ぶときは、うんと遊ぶだけど。社内の人とよく飲みに行ったなぁ。
仕事で小説家の曽野綾子さんを案内したことがあります。大町を舞台にした長編小説『湖水誕生』を昭和60年(1985)に出版した著名な方で、なんでも取材で高瀬ダムに7年近く通ってたらしいよ。俺は高瀬ダムの取水口横のトンネルを案内したんだけど、歓迎のためにお昼になぜか芋煮(里芋が主役の山形県の鍋料理)をやったよ、でっけえ鍋用意してトンネルの中でね(笑)素晴らしい小説だからぜひ読んでみて。 ダム関係者の現場の苦労が書かれてるから、面白いし大好きな本だね。
電気屋として機械設計するためにもう少し勉強したくて、社内試験に合格して東京の研修施設(旧・東電 学園専門部)に行ったこともあったよ。東京では営業開発にも携わって、生活現場で電気を安全に供給する大変さを身に染みて感じたね。例えば病院ね、配電線が事故になったら夜中だって即対応しなきゃいけない。自然災害でもそう。ダムや長野の事務所にいるのとはまた違った緊張感があったね……。俺、当時 は単身赴任だったけど、毎週大町に電車で帰ってきてたで。奥さんや子どもたちに煙たがられて、喜ぶのは飼い犬だけだったよ(笑)

ー 大町にある3つのダムの役割を教えてください
大町の高瀬渓谷には上流から高瀬ダム(昭和54年完成)、七倉ダム(昭和54年完成)、大町ダム(昭和 61年完成)という3つのダムがあって、北アルプスの槍ヶ岳を水源とする高瀬川を使ってるだ。高瀬ダム と七倉ダムはうんとでっけえ石を積み上げたロックフィルダムで、高瀬ダムは堤高(ダムの高さ)176メ ートルでロックフィルダムとしては日本一の高さだで。
大町ダムは国土交通省の施設で、多目的ダムだね。一番下流にあって大町の市街地からも見えるよ。若い人は知らないと思うけど、昭和44年(1969)8月豪雨で高瀬川が氾濫して大町市や松川村、穂高周辺が大水害を受けたことがあって。それで洪水調整もやる多目的ダムが作られただよ。 ダムにはいろんな目的があるけど、電気を作るのもその一つでね。長野県は急な山が多い地形だから、明治、大正時代から水力発電が盛んだった。戦後の高度成長期には電力需要がどんどん増えて、首都圏の川崎や横浜(京浜工業地帯)や千葉(京葉工業地域)に電力を送るため、新高瀬川発電所が作られたんで す。ここは水力発電としては日本有数の規模で、33.6万キロワットの水車発電機が4台あります。最大で128万キロワットもの電力が作れるだよ。
朝8時ころ東京湾の工場が稼働するでしょ、瞬間的にたくさん電気がいるわけ。水力は火力や原子力より最大出力になるまでの時間がうんと短いだ。起動して数分でたくさんの電気が作れる。ここで起こした電力は送電線を通って、(長野県)朝日村にある新信濃変電所を経由して首都圏に送るだ。電気は一瞬で届くからね、まさかこんな山奥で作られた電気が、あの巨大な工場群を動かしてるなんて考えられないだろう ね(笑)
高瀬ダムと七倉ダムはどちらか1つだけでは成り立たないの。2つのダム湖の間で水を往復させることで発電する「揚水式水力発電」という方法を採用しているからね。昼間は高瀬ダムから七倉ダムに水を落として発電する。夜はそんなに電気いらんから、火力などの余剰電力を使って水を高瀬ダムに上げる。水車を逆回転させるとポンプになるだいね。水力発電は他の発電方法より電力供給量は少ないけど、足りない時に必要な量をすぐ作れるからいいんだよ。電力を水の形で保管しているようなものだね。

ー 高瀬川テプコ館では名物副館長だったそうですね
定年した後7年間、電気について学べるPR施設「高瀬川テプコ館」で副館長をしてただ。七倉ダムから上は自然環境保護のためにマイカー規制があって入れないから、高瀬ダム周辺を見学できるツアーは人気があったね。東京電力の専用道路を通って地下にある発電所に入るんだけど。高さ55メートル、幅27メート ル、奥行き165メートルの大空間を目にすると、地中にこんな広い場所があるとは思わないから見学者は驚いてたね。地元の幼稚園生から近くにある大町温泉郷の宿泊者、修学旅行生までたくさんの人でにぎわったよ。秋の紅葉シーズンには大町温泉郷からのお客さんが多く、マイクロバスが1日に6台も出ることもあって、忙しかったなぁ。俺は信州弁でアナウンスするから、その案内聞きたいって、なんか人気になっちゃってね(笑)ファンレターもらったこともあるよ。
電力の難しい話ばかりにならないように、バスツアーの間に野口五郎岳や槍ヶ岳の先が見えたらそれを案内したり、この辺に伝わる「佐々成正の埋蔵金伝説」も話したよ。戦国時代、富山城主の佐々成政が後立山連峰を越えて大町に来たっていう話(『さらさら越え』)。“朝日が差す白樺のもと”に黄金を埋めたっていうだよね、伝説だけどね、車窓からお客さんと探したりね(笑)でも西正院の大姥堂には、成正一行が立山から運んできたって伝わる大姥尊像があるんだから、歴史のロマンを感じるよ。それからテプコ館近 くにある他の観光施設、大町エネルギー博物館や親水スポット「わっぱらんど」を紹介したりね。たくさんの人に水力発電を理解してもらいながら、大町を知ってもらうのは楽しかったね。

ー 観光地としてのダムの魅力はなんだと感じますか
いわゆるダム愛好家でなくても、やっぱり高瀬と七倉のロックフィルの美しさは感動するんじゃないか ね。積み上げられた約8万個の巨石の壁は圧巻だよ。岩石がとっても大きいから、機会があれば近くで見てみて。実は高瀬と七倉だと大きさが違って、若干高瀬の方が大きいだよ。
大町ダムはエメラルドグリーンに輝く龍神湖がとてもきれいだよ。『犀龍と泉小太郎』って民話が伝わるけど、アニメの「まんが日本昔ばなし」のオープニングの龍と子どもはこの民話がモチーフになってるらしいね。湖畔を散策できたり、ダムの内部見学(現在コロナ対策で休止中)できるよ。そうそう、3つのダムや林野庁の協力で毎年夏に「高瀬渓谷フェスティバル(実行委員会事務局:国土交通省大町ダム管理所)」をやってて、龍神湖の巡視体験ができることもあって、特にお子さんに人気のイベントだよ。
あとはやっぱり周辺の自然が素晴らしいね。3つのダムとその奥にある湯俣温泉を含むエリアが高瀬渓谷なんだけど、春は両岸でちらほらシャクナゲが見られるよ。秋は紅葉の名所でね、川を下流に見て左側が左岸、右側が右岸って言うんだけど、特に左岸の紅葉がきれいだよ。ここは動物がたくさんいてね、しょっちゅうサルやカモシカが事務所に来たよ。クマも見たことあるよ。動物のいる場所にダム作ったんだから、そりゃいろいろいるよね。周辺では遊漁券を買えば釣りもできて、ニジマス、ヤマメ、イワナとか釣れるらしいよ。
葛温泉もいいよ!昔、葛の根は貴重で名前の由来になったらしいで。「仙人閣」って旅館があるけど、そこには仙人が住んでたという仙人岩っていう大きな岩があるよ。

ー 北アルプス国際芸術祭に期待することはありますか
俺もね、絵とか彫刻とか見るのは好きだね。1回目(2017)のときは忙しくて、塩入洋服店の隣にあった 作品(コタケマン)だけ見たよ。……俺にはちょっと難しかったわ、現代アートは(笑)まぁ、人呼んでにぎやかにやるってことはすごいことだよ、大変だけど。いろんな人が来てくれるってことはうれしい ね。
妻は友達といろいろ見たらしいから、今回は一緒に行こうかな。ダム周辺の作品も見たいね。秋祭りが重なる時期にやるっていうから、一緒に盛り上げるなら素晴らしいじゃん。芸術祭がきっかけで大町に遊びに来てくれる人が増えたらそれはいいよね。

ー 大町に遊びに来る方へ丸山さんのおすすめを教えてください
大町のおすすめは、やっぱり山へ登ってもらいたいだよ。高瀬ダムから濁沢を登って烏帽子岳へね。上からダムが見えるんだけどね、絶景だよ。……でも烏帽子は結構大変だから、比較的登りやすい爺ヶ岳がおすすめかな。食事処は(カラオケ大会主催で地元で有名な)「折弁」がいいね、俺はカラオケ大好きだから。温泉なら「緑翠亭景水」によく行ってたよ。お風呂も素敵だし、サウナもあるし。
娘が数年前にそばとおやきの店「山里」って食堂を開いたの、俺の退職金で(笑)で、そこの配達を手伝うのが今の仕事です。「星野リゾート 界 アルプス」のウェルカムおやきにもなってるんだよ。お店で直接か、JA大北農産物直売所「ええっこの里」や「長野県A・コープ」ファーマーズおおまち店で買えるよ。
おやきはいろんな作り方があるけど、この辺はふかしてるのが多いかな。八坂は灰焼きだよね。おやきは 子どもの頃からよく食べたね。七夕んときに食べたあんこ入りの“七夕まんじゅう”が好きだったなぁ。

参考サイト
高瀬ダム
七倉ダム
大町ダム・龍神湖
高瀬渓谷への予約制乗り合いタクシー(PDF)

※年齢、所属・役職、肩書きなどはお話をお伺いした当時のものです

カテゴリー