信濃大町あさひAIR

| 大町図屏風~山紫水明~大平由香理

大町図屏風~山紫水明~大平由香理

2016年7月11日

アーティスト

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2月中旬のある日の夜、信濃大町にたどり着いた。夜の街並みの明かりの奥でひっそりと聳える山のエネルギーをなんとなく感じながら、その日は眠りについた。翌日、起きて一歩外に出ると家と家の間にみたこともないような神々しく切り立った山が真近に迫ってきて、びっくりして夢中で山に向かってひたすら歩き続けたことを今でも鮮明に覚えている。

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私は学生時代を東北で過ごし、山を身近に感じながら生活していたため、山をよく描いてきた。自分にとって身近で、実感をもって描けると思ったからだ。途方もない年月をかけて、山が動いている。神々しく続く山並みを眺めていると、果てしなく続く命の連なりを感じる。それはまるで地球の胎動のようだ。  北アルプスをこれほど真近に生活している人は、山に対してどんな思いを抱いているのだろうと興味があり、事あるごとに山に対する思いを伺った。山に魅了されて移住してきた人、山を誇りに思っている人、山を愛するたくさんの人達に出会った。しかし、同時に山があまりにも身近すぎて風景の一部としてみている人達にもまた多く出会った。

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山岳博物館に伺った際に、昔は山で木を切って暖をとったり、山菜や木の実等が生活に密接に結びついていて、自然と人が一体となって暮らしていたことを知った。しかし、近代以降、文明の発達とともに人は山から離れていき、自然の恩恵を享受するどころか浸食し続けてきたように思う。そのつけを払わされるかのように、災害等の形となって、いずれ自然が人間を浸食し始めるのではないかという予兆を感じる。

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しかし、この町には昔から山に現れる雪形によって稲作の時期を迎える準備をし、季節の移り替わりを感じる文化が残っている。松崎和紙さんへ見学に行かせていただいた際、きれいな水をはじめとした山からの恩恵を受けて産業が発展してきたことを知り、昔から山を身近に想い、共に歩み、まるで町が山に守られているかのように感じた。  普段、当たり前すぎて気にも留めないことを、私が山を描くことで伝えられたらと思い、今回作品制作にあたった。そこに住まう人が、自分の場所の素晴らしさを再発見し、元気になる。何かを与えるのでなく気づきを促すことができたとしたら、これほど幸せなことはない。  私が描く「どこかで出会った懐かしい風景」「これから出会いを期待させるような光景」が、誰かの「心のふるさと」として共有できるかもしれないという思いで、これからも絵を描いていく。

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大町リノプロ
大平由香理が「大町図屏風~山紫水明~」の公開制作を行っていた大町リノプロは、空き店舗を改装したギャラリーとして活用されています。2015年より市民の有志が集い、大町リノベーションプロジェクトとして、商店街入口の空き店舗(元ノセメガネ)を開けて、人が集まれる場所にしようと動き出しました。

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