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| 農具川 [ 水谷一 ]

農具川 [ 水谷一 ]

2016年10月18日

ブログ|水谷一 MIZUTANI HAJIME

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11月23日までの棲家、あさひアーティスト・イン・レジデンス。小さな平屋6棟からなるその施設のすぐ西手には『農具川(のうぐがわ)』と呼ばれる川が流れている。

先日、塩の道の歴史と文化を伝える博物館『塩の道ちょうじや』で開かれた文化講座『大北地方の民話・地名を遡る』を聴講した。講師は大町民話の里づくりもんぺの会 会長・相澤亮平氏。

民話、伝説の付帯する様々な〈地名〉の由来の〈実際〉についての研究の一端を垣間見せていただき、一時間半の講演そのものの見事な〈組み立て〉を含めて、非常に感心した。

不躾とは思いながらも講演後に『農具川』の由来について尋ねてみたところ、『農具川』は昔、『農川(のうがわ)』とか『のうが』と呼ばれていたということをお聞きした。

また、明確な由来はわからないが〈のうぐがわ〉、〈のうがわ〉、〈のうが〉、いずれにしてもその〈音〉が先行して、漢字が充てられたのではないか。つまり漢字が想起させる意味は仮初で、それとはまったく関係なく、さっぱりわからないが何らかの意味が、その〈音〉の由来としてあった可能性を予感されているようであった。

さてその『農具川』の源流は、大町市北端の『青木湖』である。最大水深58メートル、平均水深29メートルというなかなかディープな水溜りであるこの湖の底からは、かなりの量の水が湧いていると考えられており、その水は細く筋となって南下することで『農具川』の名を授かる。

その後、流入河川や流出河川などと言われながら『中綱湖』、『木崎湖』と名を変え、また、それらと別れることで『農具川』の名を取り戻す。(※)

南へ、流れの速度でかつて湖であった過去から離れ、離れ、『農具川』はついに同じ未来を見る分身と歩調を合わすように『高瀬川』と並び、そして出会う。混じり合って、名を失う。永遠に。名を、奪われる。

私が日々、おもに夜半、数時間に渡り耳にする水流のささめきは、水深58メートルの暗い、黒い湖底から湧き出でて、文字通り紆余曲折を経てきたがまだ、『高瀬川』を知らない、名を失うおよそ4200メートル手前の『農具川』の声に相違ない。

動画は平成28年10月2日午後5時30-35分、上記2つの川が混じり合う地点にて撮影。両水流が混じり合う場面は、雑木林に阻まれ、隠されている。
※『木崎湖』と『青木湖』は昭和51年10月16日に公開された映画『犬神家の一族』のロケ地であったとのこと。私立探偵・金田一耕助役は俳優・石坂浩二。(Yahoo!検索(人物)によると、石坂浩二氏は1941年6月20日生まれ、身長177センチ、体重65キロ)。