MENU

s007

うちは種まきからお皿にのるまで、地産地消
ここで生まれて、ここで生きてゆく

手打ちそば美郷・種山商店
種山千恵子さん

うちは種まきからお皿にのるまで、地産地消です。昔は戸隠か、新行かって言われるくらいのそばの産地で、そばしかとれないような場所だけど、とても美味しいおそばですよ。地元の粉だけを使って、石臼で挽いてます。人が生きてるのは、農業が基本じゃないですか。はじめた時のことが忘れられないけど、種まきからお皿にのせるまでやれば、お米と同じくらいの現金収入になるという事で、1972年から新行そばまつりを始めました。減反があったりして大変だったけど、地物にこだわるから、地元のそば粉が少ない時は休みを多くして調整しました。地産地消なんて言葉もまだなかったんだけど、農業を次の世代に繋いでいくことを大切に思って、ずっとやってきました。

新行は、900メートル近い高冷地だから。そばの産地はお里が知れるなんて言われるほど、貧しい所なんです。寒いし、昔は米の足りない時に食べた救荒作物。他のものがとれない時に作ったんです。旅のお坊さんは、そば粉を水に溶いて食べたなんて話もあって、非常食ですね。この先の小川村は麦が盛んですが、ここは麦もとれないんですよ、春が遅いですから。でも、そばは寒いからおいしいんです。寒暖の差がはげしくて、一気に大きくなれないから、カリカリして野菜もおいしい、大根もおいしいって言われてました。美麻は麻の産地でしたから、麻を育てていた頃は刈りとった麻の葉を土の中に入れて、そこに大根の種を蒔くと虫が寄らなかったんですよ。麻の葉は虫よけにもなったんです。

この辺の土は囲炉裏の灰みたいにさらさらした火山灰土だから、そばは灰にまけって言葉どおり、そばに適しているんです。そばは水をきらう、かと言って夜露がかかるくらいは水気がないと育たないので、傾斜地の水はけがよい所がいいんです。種まきから75日で採れます。うちの人はロシアの方に2回くらい行った事があるんですが、ロシアにもそば米っていうのがあって、炒飯みたいにすることはあっても、麺の文化は日本だけみたいですね。

美郷のおそばには、そば湯のよせと季節のお漬物とうすやきがついてます。そば湯がたくさん出るんです。捨てると仁科三湖まで流れ込むので、上流で生活する人が川を汚さないように、そば湯も捨てずに、よせ(そばようかん)をつくって出したり、畑に戻しています。そばも野菜もここでとれたものですから、自分でつくって食べるものには、ほとんど農薬はつかってないですね。

そば粉のつなぎ、水などの割合は季節によって変えています。湿度によっても違うし、手打ちっていうのは、お客様を見て、おてんとうさまと一緒にやってるから、毎日発見があるんですよ。我が家は昔のばあちゃんの味にこだわってやってます。本当はそばは寒くなったほうがうまいんですよ。みんな夏にそばを食べますが、夏のそばはしまらないから、つなぎを沢山いれなきゃいけないんです。秋が深まる頃が一番、そばの味が美味しく感じられます。

ご飯の足しやおこびれ(おこひる)でよく食べていたそば薄焼は食べやすくて、ネギ味噌をつけて1kgのそば粉を二人で食べれました。そばがきは、昔の人はけいもちとか、かいもちって言います。現代はガスコンロがあるから、沸騰したお湯にそば粉を入れて火をつけたまま練ります。昔は囲炉裏しか無かったから、田んぼから帰ってきて、囲炉裏で茶碗を温めて、そこにそば粉を入れて、熱湯を注いでしっかりとかき混ぜる。簡単ですよ。そば薄焼きもそばがきもそば粉100%だから、そば粉がおいしくないとできないですよ。でも、みんなで食べるならやっぱりおそばですね。昔は限られたそば粉でいかに大勢の家族の胃袋を満たすかが大事だったから。亡くなった99歳のおばあさんが、「薄焼きで食べると食べこんじまう、おそばは家族みんなで食べられるからいいんだ」と言ってました。昔からの知恵ですね。

毎日のようにおそばを食べてたけど、やっぱりごちそうでした。お祝いごとは、お餅とそば。そばとお餅を出すときは、「ごちそうさまでした」のあと、「お粗末さまでした」とは言わない。食生活は変わったけれど、今は本当に遠くから沢山の方がおそばを食べに来てくださいます。それっきりに大阪や金沢のほうからも来てくださり、ありがたいことです。うちは宣伝もぜんぜんしてないですが、循環型農業の自給自足レストランという風に紹介されたこともあります。ここでとれたものをここで食べてもらう。それを思い出して、またここに来てほしいと思って28年間続けてきました。ここで生まれて、ここで生きていくことをずっと考えていこうと思っています。

この地方では、秋一番の急激な冷えこみを「そばおどかし」と言います。そばは花を咲かせながら成長して、「そばおどかし」で秋を感じて、実をつけるんです。その名前をそばでつくった焼酎につけました。大町の鷹狩山の風穴(ふうけつ)は気温が涼しくて一定ですから 、昔は暖かくなって桑の葉が出るまで、蚕の幼虫を風穴の中にいれておいたんです。その風穴にそば焼酎をねかせて熟成させたのが、「そばおどかし」です。そばのワインみたいな味でおいしいですよ。ぜひ飲んでみてください。

~2014信濃大町 食とアートの廻廊より~