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雪国の保存食

s003

食文化を守り、伝える

信濃大町のつけものや
曽根原叶子さん

保存食と言えば先ずは漬物かな。漬物が好きかなんて、考えたこともありません。ここらの主婦はみんなやってきたことですから。昔は自給自足だったから、たくさん取れたときには無駄にせず、上手に保存して毎日の食卓を繰り回していくことは、主婦の大事な務めでした。冷蔵庫もスーパもなかったから、いかに野菜を保存して、長く食べるか考えたんでしょうね。大雪に閉じ込められても、私たちは1週間や10日は家にあるものだけで暮らせますよ。

夏は、ナスもきゅうりも食べきれないほど採れます。でもこの時期は漬物をしている暇もない。とりあえず、たっぷりの塩に漬けておくんです。少し手が空いてから、いろんな塩漬けの野菜を取り合わせ、塩抜きをして細かく刻んで本漬けにします。福神漬け(つけものやでは錦漬という名称で販売している)、しば漬、蔵漬。みんなそうです。
梅を漬ける仕事は農家が忙しい頃と重なり、時期が限られるから難しい。1日延ばしたりするとそれで全然駄目になることもあるのよ。ここらでは、梅だけでも、赤く甘く漬けたり、青く甘く漬けたり、しょっぱいカリカリ漬けにしたり、それも大梅に小梅にと、大変なものです。毎日のお茶請けに欠かせないものでしたから。
冬の間ずっと食べる野沢菜も、1軒で何10キロも漬けます。浅漬けもおいしいけど、お正月頃にはしっかり漬かってね、そのうち酸味が出てくる。その前に、炒めたり、おやきの具にしたり、いろいろ工夫して食べます。酸っぱいのが好きな人も居て、それぞれ。漬物は発酵食品ですからね、味の変化を楽しみながら、毎日手をいれてやらないと、カビがつくんですよ。ここらの寒さを利用した食文化なんでしょうね。
乾かすものとしては、かんぴょうや干し柿、干し大根。寒干大根はニシンと煮ると美味しいのよね。この辺には各家で何でも乾物で保存する文化があって、おばあさんが小さな笊にナスやカボチャを切ったりして乾燥野菜をつくっているのを今でも普通に見かけますよ。粕汁には野沢菜を乾燥させた干葉。寒風にさらせばすぐ乾く。芋干もあるわね。霜の来る前にとって、ぶら下げておく。凍りもちは、今でいえばフリーズドライというんでしょうか、昔の人の知恵はすごいですね。

凍りもちは、1月の一番寒い時期に、切ったお餅を水に浸して、氷点下の夜に引き上げて外に干すの。そのまま春先までつるしておくと、乾燥してサクサクになる。お湯を注げばおかゆ状になるし、水を含ませてレンジにかけるとふわふわのお餅に戻ります。栄養があって消化もいいし、乾物で軽いので携行食にも優れものです。船乗りさんや登山する人からの問合せもありますよ。離乳食や介護食にも使われてます。昔はどこの家でも当たり前に作っていたんですけれど、作らなくなりましたねえ。逆に珍しくなっちゃったから、私たちが商売になっている面もありますけど。

今は核家族化と少子高齢化が一緒に進んでいて、若い人たちはお爺ちゃん、お婆ちゃんから教えてもらえない。漬けものの作り方を知らないし、作らない。でもね、イベントで試食やると、小さい子なんかがきて、よく食べてますよ。お母さんが良く黙っているなと思うほど。何回も飛んで来ては、つついていく。ちゃんと作られたものは、飽きがこなくておいしいんですよ。
今の若い人はサラダ感覚のものは好きなんだよね。浅漬けとか。だけど昔からの古漬けっていうか、塩蔵保存しながら塩出しして作るってのは、案外無くなってきている。食べると喜ぶんだけど、自分で作るかって言えば、しないんだよね。
漬けものは材料費の割合が高くて、少しばかり作るのは、手間も考えると大変かも知れないね。若い人たちに漬けものを伝えたいと思ってるけど、「皆さんが家で漬けものを作る作業を代行すること」のほうが私たちに求められているのかなぁとも考え始めてます。せめて味だけでも伝えたいから、つけものやとして作り続けていきますよ。
でも、それをするためには、販売先がなければ駄目。結局、営業もしていかねばならないの。もとが農家だから自分たちの感覚で「こんな高かったら誰も買わないよね」ってところから入るから、なかなか儲からないよね。

伝統保存食って言うのかな、昔の人のいろいろな知恵は、本当にすごいよね。無くしちゃったらもったいない。しっかり、後世に受け継いでいきたいと思います。味噌の会やおやき作りの会もやってますが、どこも若い人が居なくて、これからが心配なの。今の時代、化学物質の少ない安全なものを求めてる方は増えていると思うし、伝統的な食材も見直されて来てると思うんですよ。若い方が参加してくださるのを待っています。一緒にどうですか?
それと、やっぱり風土だよね。この土地の食べ物は、ここへわざわざ来てもらって食べるのが一番おいしい。ぜひ、大町へ足を運んでみてください。

~2014信濃大町 食とアートの廻廊より~