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【北川ディレクター日記】6/21更新

では、東山エリアの作品について。

霊松寺は曹洞宗の名刹で、廃仏毀釈の荒波にも耐えたその伽藍は見事なもので、その古い山門の彫りも凄い。このお寺は是非行っても欲しいところでした。さすが、髙橋貞夫は彫彩の展示をここでやりたいと言う。思いは同じ。僕が行ったときには地元のご婦人方がお茶の会をやっていて一服ご馳走になったし、先日は山下洋輔のジャズ・カルテットを堪能しました。お寺は山中、里山を生きてきた人々が集まるところなんですね。一昨年、「祭in大町」が大町市であって、これには近郊の集落の祭りや囃子が加わったり、諏訪湖の御柱祭の木遣保存会が参加したりで、久しぶりに良いフェスティバルを観たのですが、これを指揮していたのが、地元木彫のエース髙橋貞夫さんだったのです。

その木彫は山本鼎の提唱による農民美術の流れを汲んだもので、木をドーンと二枚、アキを作って組み合わせたもので迫力があります。この大町で、こういう独自の作品を作ってきたのだと感銘を受けました。庫裡の天井まで汲み上げられた見事な梁の空間で、これらの作品を見ると、木のもつしなやかで格調ある勁い(つよい)骨格を堪能することができます。

同じこの地でもくもくと仕事をしてきた人に折り紙の布施知子がいます。その名は外国でこそ特に知られ、「ユニット折り紙」の世界の第1人者で、その折り方も独特なものです。鷹狩山山頂の家屋で、その凄さを体感してください。紙のもつ光との親和性、硬い柔らかさなどなど、紙が芸術祭の傑作のなかにいて、見劣りしないだけではなく、厳然と、植物・木のもつ力を教えてくれるのでした。

実を言えば、この作品に至るためには、台湾のリー・クーチェの土地の木を使った気持ちの良い螺旋の回廊を通り、大人気のチーム、目の作品の胎内をくぐり抜け、隣り合わせに布施作品の建物があるのです。

目は、とにかく北アルプスを見遥かす場所をつくりたかったのだと思います。

鷹狩山山頂、神社の石段を上がったところに不思議な建物があり、目は建物の外被が窓や扉などの開口部に裏返しになって内部にもぐり込むような空間をつくるのですが、それが内部空間を変容させる、凸凹があり、坂があり、迷路になっている。そこに大きな開口部をつくり、そこから、蓮華岳、爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五龍岳を望むのです。足許には、山からの川がつくる幾重もの扇状地が拡がり、私たちは「あれが爺ヶ岳、あの光るのが高瀬川」と指差し確認していく、あの智恵子抄の場面の中にいるような寛(ゆた)かな明るい広がりにいることに気づくのです。「かうやつて言葉すくなに坐つてゐると、」と言いたくなるような、あるいは「見よ、旅人よ」と言いたくなるような光景が、ここにはあるのです。

ここから八坂に行くと、そこはまさに里山。こんなところまで人が入ってきて、豊かな生活をしてきたんだ、と思わざるを得ません。

ロシアのニコライ・ポリスキーの作品、北斎の「富嶽三十六景」に想を得た「バンブーウェーブ」は、地元の人たちの熟練と熱意が伝わってきます。

そこからまた奥に行くと、三軒の集落に幾何学模様を施した、フェリーチェ・ヴァリーニの「集落のための楕円」。これは定点に行くまでに、それらの部位がさまざまに変化する楽しみもありますが圧巻です。

東山の旅の最中、地元あるいは他所からの二人連れが実に多かった。90を越える老婦人も楽しみながら廻っておられた。実に健脚、実に朗らか。「こういうのもイイネェ!」の感想に、こちらも嬉しくなるのでした。

 

北川フラム

 

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