水谷 一
水谷 一 Hajime Mizutani 1976 神奈川
アーティスト。表現すること、表現されること、表現されないこと、表現されたもの、表現する人について思考する。近年の展覧会に「引込線2015」(旧所沢市立第2学校給食センター、埼玉県、2015年)、「憲法を書き展示する会」(gallery&space弥平、神奈川県、2015年)、「反戦 ‒来るべき戦争に抗うために」(SNOW Contemporary、東京都、2014年)、「瀬戸内国際芸術祭」(旧三豊市立粟島中学校、香川県、2013年)等。1976年三重県生まれ。2003年多摩美術大学大学院修了。
滞在期間 AIR2016 2016年9月15日~11月23日
あさひAIR2016滞在制作展「稲穂の実る音」
「死角の眺望 / View of the blind area」
展示場所:鷹狩山山頂古民家
「軸足の使い方 / Use of the axopodium」
展示場所:市街地の倉(伊藤金物所有)
インタビューLINK
レビュー
[水谷一は、濾過装置である]
彼はあさひAIRに滞在した70日間、自転車で大町市の史跡や資料館、神社仏閣を巡り、植生や地質、水脈についての知識を集め、地域の環境を自らに染み込ませていた。そこで「水谷一」が描く行為を重ねる事によって、鷹狩山山頂の古民家に作品「死角の眺望」が現れた。 彼は「死角の眺望」を「描画体」シリーズのひとつとして位置付けている。大きな紙に木炭で描かれた呪術的にも感じる紋様は、立体的に展開されて海のようにも、山脈のようにも認識できる構造体を形成する。方法論としても絵と彫刻の間に位置するこの「描画体」を、彼は制作する自分自身の精神、体調、周囲の環境を反映した心電図のようなものかもしれない、と言う。何か特別で固有のメッセージではなく、行為と認識の総体が「水谷一」というフィルタープロセスの結果、作品が「表現」されている。 ひょうげん【表現】 ①内面的・精神的・主体的な思想や感情などを、外面的・客観的な形あるものとして表すこと。また、その表れた形である表情・身振り・記号・言語など。特に、芸術的形象たる文学作品・音楽・絵画・造形など。 ②外にあらわれること。外にあらわすこと。 松村明編(2006) 『大辞林 第三版』・三省堂より引用 広義での「表現」は一般的な行為で、大切な人への手紙も、子供の笑顔も、新年の抱負も、表現である。他人ばかりでなく、未来の自分に対する表現によって、僕らは自分を再認識し、その環境を学んでいく。生きることは常に体験と表現の繰り返しで、「水谷一」はそれをよく知っているのではないかと思う。だからこそ、絶えず表現し続ける覚悟を通じて、彼の作品はその純度を高めていくのだろう。
あさひAIRコーディネーター 佐藤壮生