アナンダ・サーン
アナンダ・サーン Ananda Serné オランダ 1988
オランダ生まれ。ヨーロッパの運河に浮かぶ船の上で育ち、現在はノルウェーとオランダを行き来しながら、テキスト、映像、そして写真を媒体に作品制作をしている。アントワープのセントルーカス学校を卒業し、ベインハルト文化奨学生としてレイキャビックのアイスランドアカデミーで芸術学の修士号を取得。主な展示にコーパヴォグル美術館、ノルウェー若手現代美術展など。また、オランダをベースにした複数のオンラインマガジンで執筆活動を行う。
覚書 高瀬川の木霊 私は「サウンディング」という行為を知った。 『プレーンウォーター』アン・カーソン
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滞在期間 AIR2016 2016年9月15日~11月23日
あさひAIR2016滞在制作展「稲穂の実る音」
「高瀬川の木霊 / Echoists of theTakase River」
展示場所:大町リノプロ2F
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レビュー
[アナンダ・サーンが見ている世界を、僕らは見ていないのではないかと思う]
彼女は「2つの場所に同時に存在する」可能性を創作テーマにしている。僕らの常識では、2つの場所に同時に存在する事は矛盾でしかない。しかし、素粒子物理学で観測前の電子が複数の場所に存在している事が証明されたように、ある視点、もしくは視点が消失するある地点において、僕らを構成する要素が2つの異なる場所に存在する可能性は、科学的にも否定できない。そこで問題になるのは、僕らはどのように世界を認識し、何を「存在」として捉えているのかという事だ。 彼女は作品「高瀬川の木霊」で、木霊(エコー)という現象の視覚化を追求した。自然環境と巨大土木構造物が共存するダム湖に反響した木霊を、人はどのように認識しているのか。彼女はそれを、コウモリがエコーロケーション(反響定位:自ら発した音が反響する事で周囲の環境を認識すること)で感知する世界や、時を超えてその場所に宿る魂のこと、植物が共感覚を持っていたら、と様々な観点から想像することで見えない世界に踏み込んでいく。 彼女は明晰な目的意識と想像力で、存在が知覚できない現象に向き合っているのだ。認識とは曖昧なもので、知覚できなくても無意識に訴えてくる感覚がある。そういう第六感的な認識について、大乗仏教の「唯識」では、人間は8種類の識、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)と意識の他に、2層の無意識(末那識、阿頼耶識)で世界を認識しているのだと説く。映像と冊子で構成された作品「高瀬川の木霊」の細部に、彼女が無意識と向き合った痕跡を感じれば、僕らは世界を再認識できるかもしれない。
あさひAIRコーディネーター 佐藤壮生